読書案内:”Objectification”


  1. 書誌情報
    Martha Nussbaum, ”Objectification,” Philosophy & Public Affairs Vol. 24, No. 4, pp. 249-291,1995.

     
  2. 解説
    第二次フェミニズム運動において中心的な議論となった「Objectification(以後対象化)」の概念について整理するために一読する価値のある論文と考える。SNS上で語られる女性の描かれ方や、扱われ方について理解を深められるだろう。

    執筆者のヌスバウムは、キャサリン・マッキノンを引き合いに出して、対象化が女性から自己表現や自己決定といった人間性を奪う悪いものとする意見を紹介しつつ、対象化が混同されがちであることを認めながら、よりポジティブな意味合いにも使われると主張する。対象化が混同される要因として、対象化の概念を明確にしてこなかったためであると指摘する。そして、ヌスバウムは、対象化には以下の7つの異なる要素があるとした。(これらの要素は、密接につながっているものの、それぞれ独立した要素であるとしている)

    1 .道具性(instrumentality)
    ある対象をある目的のための手段あるいは道具として使う。

    2 .自律性の否定(denial of autonomy)
    その対象が自律的であること、自己決定能力を持つことを否定する。

    3 .不活性(inertness)
    対象に自発的な行為者性(agency)や能動性(activity)を認めない。

    4 .代替可能性(fungibility)
    (a)同じタイプの別のもの、あるいは(b)別のタイプのもの、と交換可能であるとみなす。

    5 .毀損許容性(violability)
    対象を境界をもった(身体的・心理的)統一性(boundary-integrity)を持たないものとみなし、したがって壊したり、侵入してもよいものとみなす。

    6 .所有可能性(ownership)
    他者によってなんらかのしかたで所有され、売買されうるものとみなす。

    7 .主観の否定(denial of subjectivity)
    対象の主観的な経験や感情に配慮する必要がないと考える。 

    ヌスバウムは、6つの例(5点の文学作品と1点の雑誌の表紙)を通してそれぞれの要素の道徳性について考察を行った。その結果、7つの要素の内、道具性のみが常に道徳的に問題があり、他の要素は全体的な文脈に応じて、良いものにも悪いものにもなりうる特徴をもつに留まるとした。例えば、自律性の否定や主観の否定は、互いに尊重した上での関係であれば問題ない、あるいは非常に素晴らしいものとなり得るとした。これらの要素は、複雑につながりつつも互いに独立した要素としている。 

  3. 著者紹介
    アメリカシカゴ大学教授詳細は以下のURLにて(https://www.law.uchicago.edu/faculty/nussbaum) 

  4. Further Readings
    ・江口聡、「性的モノ化再訪」、京都女子大学現代社会学部、現代社会研究第21号、101-114、2019年

     性的モノ化(sexual objectification)について、「見ること」と、「扱うこと」を分けて考えることの必要性を説くなど性的な対象化への批判を整理しています。この論文の中で、対象化について概説する際に、今回紹介した論文を始めヌスバウムの整理に更なる要素を追加したラングトンのことも紹介している。そのため、対象化議論について知りたい方にはお勧めです。 

    ・Edward Orehek and Casey G. Weaverling (2017) ”On the Nature of Objectification: Implications of Considering People as Means to Goals,” Perspectives on Psychological Science , Vol. 12(5) 719‒730.(https://edwardorehek.files.wordpress.com/2017/10/ orehekweaverling20172.pdf) 

    心理学の人間に対する評価プロセスにおいて対象化が必然なものであると主張している論文です。ヌスバウムの説明に対して、対象化自体の道徳性を説くのではなく、対象化される人間と、対象化する人間の間にある期待がずれていることから発生する問題だと指摘しています。対象化について心理学的なアプローチを用いた研究としてわかりやすいのでお勧めします。

  5. 執筆者情報
    鷲江倫明(2022/05/29)

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